Today's Notables 2010年07月

上海万博を訪れて

代表取締役社長 古市 尚


会長から引き継いで入会させていただいている「関西中堅企業の会」。その春季研修旅行が上海万博だという案内をもらい、真っ先に申し込みました。日程は5月15日〜17日の3日間でしたが、私はPRIMIX上海にも行きたかったので、団体旅行は2日間だけにしてもらい、月曜日は上海工場に出社しました。私は大阪万博開催時には中学1年生で、楽しい思い出もいっぱいありますが、比較対象としては2005年に開かれた愛知万博の方が記憶に新しく、若い人にも知られているので、愛知万博を比較対象とします。

まず、大きさですが上海万博の有料入場部分の敷地面積は328ヘクタールと愛知万博の1.9倍です。東京ディズニーランド、ディズニーシー合わせて約100ヘクタールなのだそうで、TDLの3.2倍ということになります。公式参加者数も242の国と国際機関となっており、こちらも愛知万博の1.9倍という発表になっており、日本とのスケールの違いが歴然としています。
入場料は会期中に販売している基準価格が160元。日本円にして約2,200円です。物価感覚を申し上げますと、当社、上海法人の新卒給与が1,500元ですので、その10分の1に当たる金額です。当社は上海市といえども上海の中心部からは少し離れていますが、いわゆる地方都市よりは遥かに物価は高いと言えます。従って、中国人の平均からいうと入場料は決して安くはない金額でしょう。しかし、上海市の住民には1世帯に2枚無料券が配られ交通費も支給されているようです。その他にも企業が補助するところも多くあるようで、当社も見識を深めるのにはいい機会だと思い、現地社員全員に入場券を配布しました。日本人は万博と言いますが、中国では世博と書いてシィーボァと読んでいます。空港やら市内やら至るところでマスコットの「海宝(ハイバオ)」と共に、世博、世博という文字をやたらと目にしました。

私は2004年に上海に会社を設立して以来、毎年2回から3回は上海を訪れますが、いつ行っても街の様相が変わっているほどの建設ラッシュが続いていました。特に昨年12月に上海を訪れた時は、道路工事、地下鉄工事があちこちで行われ、上海といえばほこり、渋滞、クラクションというイメージでした。ところが今回行ってみると工事はどこもやっていない!? そのお陰でほこりが立っていない!? クラクションの音もマンハッタンのレベルまで少なくなっている!? 現地の人に聞いてみると工事は禁止されているらしく、建築物も内装工事はやってもいいそうですが、外装工事は禁止になっているそうです。クラクションも基本的には罰則規定を設け、やたらとクラクションを鳴らすと、交通違反で取り締まりの対象になるとのこと。高層マンションでも窓から長く突き出た物干し竿に洗濯物をいっぱい干していた光景もなくなり、すっかり街の雰囲気が変わってしまいました。世博後もこの光景は続くのでしょうか。

我々は20名の団体で添乗員も付き、ジェトロの方にも会の活動や研修会の目的を伝えてありましたので、VIP扱いで待ち時間もほとんどなく、効率よく視察をすることができました。訪問したのは時間の関係から中国館、日本館、日本産業館、大阪館の4つでしたが、展示館の中は比較的じっくりと見ることができました。大阪万博の時はまだ目の輝いた青年だったせいか、或いは当時の生活がそれほど近代的でなかったのか、会場で見るもの見るもの「おっ、すごい!」と思うものばかりでした。しかし、今回は世博といえども「行ってよかった。素晴らしかった。すごかった」と言えるものがあまりなかったというのが正直なところです。それは今の日本人はみんなちょっとやそっとのハイテクでは驚かないからだと思っているのですが……。私が目の輝く青年じゃなくなったからじゃないですよね。それどころか施工の悪さばかりが目に付き、あっ、ペンキがはげている! あっ、タイルの張り方がグチャグチャ! 行列のあとはゴミだらけ!という始末。

唯一、感心したことといえば色々なところで取り組んでいる「エコ」対策です。特に、日本館では打ち水の原理や空気の層を利用し、真夏もエアコンを最低限に抑えられる工夫や、雨水を利用する方法を実証しているようです。展示としてもCO2削減や化石エネルギーを使わない生活なども多くあり、時代を感じさせられました。また大阪が世界に誇るテントメーカー、太陽工業の製品は日本館をはじめあらゆるところで採用されており、会場の真ん中に位置する世博軸(世博大通り)には最大幅約97m、全長約840m、膜部高さは最高で38m、膜屋根面積約6万5千mと、その技術力の高さには改めて感心させられました。
20万人の入場制限をしていた初日から3日間の後、入場者が10万人台と低迷していた上海世博ですが、私が行った前日は33万人でその日は23万人の来場者がありました。中国は一番でなければならないはずなので、どんな手を打とうとも大阪万博の入場者6,421万人を上回ることは間違いないと思います。日本人は(特に日本の政治家は)北京オリンピック、上海世博の成功を見て、また、GDPが追い越されたことを認識し、もう少し危機感を持ってほしいと感じた世博でした。

写真1:唯一の記念品、団体入場券。
写真2:紅藤色の日本館のテントの角。角が空気循環の排気や太陽光を取り込みます。
写真3:中国館の手前に見える白いものが太陽工業製の巨大テントです。

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