Today's Notables 2004年11月
南アルプスの女王を制覇
代表取締役社長 古市 尚
昨年は生まれて初めての登山体験記を書かせてもらったが、今年も懲りずに社団法人日本食品機械工業会青年部の恒例行事となっている登山に参加した。昨年は初めての経験だった上に、日頃の不摂生がたたり、まさに身体がボロボロになる地獄の一日だった。1年後にどこへ行くかも決まっていたし、どうせ断りきれないこともわかっていたので、多少意識した1年を過ごしていた。しかし、何をやるにも三日坊主タイプなので、それほどシェイプアップができていたわけではない。以前にも書いたが、糖尿病の専門医である従兄弟から注意を受けて以来、食生活に注意したり、断食道場に行ったりしたおかげで、昨年登山にチャレンジした時よりは10kg以上体重が減っていた。登山の2ヵ月前には自宅マンションの階段を毎日上がれば運動になると思い、最初は行ける所まで行き、日を増すごとに徐々に階数を増やし、登山の前までに自宅のある22階まで階段で昇れるようになっておこうと思ったが、まさに三日坊主で終わった。最初の三日間は限界の7階まで昇ったが、一度7階でハァハァと息が上がった状態でエレベーターに乗ったら、先にエレベーターに乗っていた住人に非常に奇異な目で見られた。考えてみると夜中にハアハアと息を切らした人間が途中からエレベーターに乗ってくるのは、かなり怪しいと思われるのは間違いないので、警備員に職務質問される前に、階段トレーニングはやめてしまった。結果的に体重が減った以外はたいした肉体改造、体力改善もないまま、あれよあれよと言う間に登山の日がやってきてしまった。
今年は南アルプスの女王と呼ばれる仙丈ケ岳である。なんと標高は3,033mだそうで、初心者にそんな山が登れるのかいな?と思わせるぐらいの標高である。どうも日食工の会長が本物のアルピニストなので3,000m以下の山は山と思っていないらしいが、素人にとっては腰が引ける標高である。しかし、インターネットで調べてみると“南アルプスの女王”と形容される理由の一つとして、「歩きやすい登山道、柔らかな曲線を描くカール、高山植物の彩り、すべてが登山に興味のない人でも山好きにさせる魅力がある山です。」と言うことが書かれていたので少しは安心した。
今回の登山計画は頂上付近の山小屋で1泊するプランだったので、登山当日の朝、登山口近くの休息所で待ち合わせた。都心からは中央高速道を使い諏訪ICで下り、高遠城への案内看板通りに車を走らせ、高遠城を過ぎたら、国道152号線を南下。高速を下りて30分程度で待ち合わせ場所の長谷村、村営バス停留所に着く。そこは戸台口と呼ばれ、仙流荘という登山者のための宿泊施設がある。また、登山者のための無料駐車場も完備されている。戸台口からは一般車両が入れないため、村営バスに50分ほど揺られ、終点の北沢峠まで行く。村営バスに乗っている間はバスの運転手さんが高山植物や車窓から見える山々の説明を丁寧にしてくれるので、50分と言ってもさほど遠さは感じない。北沢峠でバスを降りた後、準備運動をして注意事項をプロのシェルパの方から聞いた。今回は昨年ローツエ登頂に挑戦したモノホンのアルピニストがガイドに来てくれ、もう一人女性の山岳部OGの方がサポートに付いてくれた。今回はそのガイドの方がみんなの歩調を見ながら歩いてくれたためか、自分の体重が減ったためか、そんなに息も切れず、落ちこぼれになることもなく、ついて行くことができた。一度休んだ時に青年部の部長が「プロのすぐ後を歩くと楽だよ」と言われたので、先頭を歩かせてもらうことにした。プロの足取りを見ていると、想像していた足取りとは全く違い、随分小刻みに、しかもなるべく段差のないところを探してちょこちょこ歩かれるのに気付いた。私の想像では登山家のプロは大またで高い段差のところをぐいぐいと登っていくのだと思い込んでいたので、そのギャップに少し戸惑った。そのプロの真似をして同じ足取りで歩いてみると、これが非常に楽で無理なくスムーズについていけることがわかった。天気もさほど日差しは強くなく、かといってそんなに雲も厚くなく、登山には最適な天気であった。途中1時間ごとに休憩しながら、藪沢→馬の背ヒュッテとたどり、出発から3時間半後に目的地である仙丈小屋に辿り着いた。当初の予定では、翌朝にそこから30分ほどの頂上に登頂する予定であったが、天気もよく、予定より少し早く着いたこともあって、山小屋に荷物を放り込んで、すぐに頂上に向かった。実は昨年は本当の頂上までは行けず、30分ほど手前で挫折してしまったので、今回は本当の頂上まで行けたことに満足した。山小屋も予想外に近代的な設備で綺麗なトイレが備わり、ログハウスのような室内もかなり新しく、清潔であった。夕食もそこでカレーライスとポテトサラダなどを出してくれ、ガイドさんたちに持ってきてもらった、ビール、焼酎、ウイスキー、おつまみなどを堪能した。想像の通り、ガイドさんには我々の予備の食事やその他諸々を持ってもらっているので、リュックの重さは30kg以上はあると思われるが、それを平然と担いでいた。
頂上付近は10℃ぐらいでかなり寒い感じだったが、天気もよく、下界を一望に見渡せた。たぶん、登山家はこんな時に喜びを感じるのだろうなと想像はしたが、私はその時すでに、明日の下山の心配をしており、また膝がガクガクする苦痛を味わうのかと思うと、山の征服感や景色を能する余裕もなかった。結局そんなことで今年も登山家の気持ちが理解できないままに、下山したが、昨年よりは随分と楽で、身体がバラバラになるような思いはなかった。帰りもまた渋沢峠から村営バスで戸台口に戻り、村営の宿泊所ですばらしくきれいで大きなお風呂に入り、大広間で昼食を取って帰途に着いた。あーぁ、来年はどこに行くのだろう。いつになったら登山の良さがわかるんだろうと思いながら、中央道をぶっ飛ばし、自宅近くのマッサージ屋さんを目指した。
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