社報shinko〜親交〜 2018年05月号
化粧品のスペシャリスト、高橋さんに聞く! 美容のあれこれ
■毛に関するいろいろなお話
乳化分散技術研究所® テクニカル・ディレクター 高橋 唯仁
大手化粧品メーカで長年従事されてきた化粧品のスペシャリスト、乳化分散技術研究所® 高橋さんの美容に関するコラムです。いや〜、毛って本当に不思議ですね。
「まゆ毛カットしときますねー」
最近カットに行くと、シャンプーのついでに必ずこう言われるようになりました。特に頼まなくてもシャンプーの体勢のまま、何本か出現している太くて長いまゆ毛をカットしてくれるのです。ついでに最近生えてきた耳毛もさりげなくカットしてくれます。たぶん、ハタから見ると目立つのでしょう。加齢の象徴といいますか、あまりうれしくないところの毛が濃くなったり長くなったり、あるいは元々生えていなかったところに極めて丈夫な毛が現れたりするようになりました。薄毛ほど深刻ではないにせよ、妙なところの毛が部分的に伸びすぎるというのもまた困りものです。というわけで、今回は伸びすぎても逆に困るという毛の悩みについてお話ししたいと思います。
前回、薄毛の話の中で、髪の毛には一定の周期(ヘアサイクル)があり成長期、退行期、休止期を繰り返しながら生え変わっていること、薄毛はそのスイッチの入り方がおかしくなって成長期が短くなった状態であるということをお話ししました。ヘアサイクルの乱れにはその逆もあります。すなわち、退行期から休止期へと移行するスイッチがなかなか入らなくなり、成長期が長くなって伸びすぎる場合です。例えば、髪の毛の世界記録はある中国人女性の5.6メートル(ギネスブックより)といわれていますが、単純にカットを我慢して伸ばしっ放しにすればこれくらい伸びるかというと、通常のヘアサイクルからみてそれは考えにくく、ここまでくるのは明らかに伸びすぎです。単純計算してみますと、頭髪の成長速度は元気な髪で1日に約0.5ミリ程度ですから、月に約1.5センチ、1年で約18センチ伸びる計算になります。成長期が平均して3〜7年といわれていますから、最大7年間続いたと仮定して、その間順調に伸び続けたとしても1メートル26センチで成長が止まる計算になります。人種によって違うとはいえ、通常より4倍も長いというのはやはり超例外的、普通に考えたらこんなのあり得ません。
頭髪に限らず、ひげ、胸毛、まつ毛、まゆ毛などの体毛も固有のヘアサイクルを持っています。体毛の成長期は頭髪に比べて短く、ほっといてもある一定の長さで成長が止まるようにできています。例えば、まゆ毛の成長期は約1〜2カ月、しかもその成長速度は髪の毛に比べると非常に遅いので、伸びたとしてもミリ単位です。ところがこの短い成長期が突然長くなった結果が、最初にご紹介した私のいわゆる「立体まゆ毛」です。加齢とともに一部が太くて長い硬毛、剛毛に変化するのです。耳毛も事情は同じです。生えてないように見えても耳には細かい毛穴がありますから、ヘアサイクルが狂って成長著しいやつが1本だけ生えてくることがあるのです。さらに鼻毛も歳とともに伸びが速くなった気がします。この悩みは中年男性には一般的なことのようで、お父さん用鼻毛カッターというヒット商品も誕生しました。
動物の毛にもそれぞれ固有のヘアサイクルがあります。たいがいの野生動物は体温調節などの目的で夏毛と冬毛が生え変わるようにできていて、季節の変わり目になると、成長が止まって休止期に移行する毛の割合が増えます。ペットを飼っておられる方はわかると思いますが、1年のうち何回か、ものすごく毛が抜けて掃除が大変という時期を経て生え変わるのです。ところが動物の中にはなんとヘアサイクルというものがなくなってしまっていて、一生毛が抜けることなしに伸び続けるという、なんともうらやましいような、うらやましくないような例もあります。メリノ羊やアンゴラウサギです。人間が毛を取るために品種改良を重ねた結果、毛を刈ってもらわないと生きていけない体になってしまったのです。羊たち本人にとっては至極迷惑な話に違いありません。聞くところによると、オーストラリアやニュージーランドでは群れから脱走した羊が、数年後にモコモコで動けなくなって発見されるという事件がたまにあるようです。そんな羊一頭から取れた毛のギネス記録は何と41キロ。暑いと同時に、女性一人を常に背負って歩いているようなもんです。こらしんどいわ!
以上、毛がなくなるのも寂しいですが、伸びすぎるのも困るというお話をしました。特に歳をとると濃くなってほしいところが薄く、薄くなってほしいところが逆に濃くなることが多くなります。世の中うまくいかないものですね。今回は自分の例を中心に男性目線で語ってしまいましたが、女性の場合、ムダ毛のお手入れはもっと深刻ではないでしょうか?薄毛もムダ毛も「ヘアサイクルのスイッチの故障」なのですが、最近そのスイッチの正体が少しずつ明らかになってきました。それを化粧品の力でコントロールできるようになれば、近い将来、薄毛、ムダ毛の悩みから解放される日が来るかもしれません。期待しましょう。
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