社報shinko〜親交〜 2017年04月号
化粧品のスペシャリスト、高橋さんに聞く! 美容のあれこれ
■男と女の薄毛事情その2:薄毛と戦う実戦編
乳化分散技術研究所® テクニカル・ディレクター 高橋 唯仁
大手化粧品メーカで長年従事されてきた化粧品のスペシャリスト、乳化分散技術研究所® 高橋さんの美容に関するコラムです。non-AGA高橋さん自らが実践しているという育毛法、説得力があります。
前回に引き続き薄毛の話です。図1(右の写真)をご覧ください。現在の私の頭です。人生後半戦のアラカン世代の割にはかなり善戦している方だと思いますが、いかがでしょうか?少なくともnon-AGAのレベルは何とかキープできているようです。今回は、前回お話しした男女の薄毛事情を踏まえて、薄毛のメカニズムとそれに対応する育毛法を中心にお話しいたします。
まず、毛がどのように作られて、どのように抜けていくかを見てみましょう。
図2(a)は毛の一生を表すヘアサイクルです。健康な髪でも一度生えたら永遠に伸び続けるわけではありません。必ず一定の寿命がくると抜けていき、新しい毛と入れ替わります。ヒトの毛は1カ月に約1cmちょっと伸びます。これが成長期で健康な髪の場合約3〜7年続くといわれています。成長期が終わると約1週間で毛根が縮み成長がストップします。これが退行期です。こうして成長が止まった毛は、抜ける準備をしたまま次の毛が生えてくるまで毛穴で待機します。この状態が休止期。約3カ月続きます。その間に古い毛は自然に抜けて新しい毛と入れ替わります。日本人の毛量は約10万本といわれていますから、休止期の毛の割合から単純計算して1日に100本ぐらいは抜ける勘定になります。ですから、ある程度毛が抜けるのは当然の話で全く問題ありません。前回、男女の薄毛事情は微妙に違うという話をしました。それぞれヘアサイクルの乱れが原因と考えられています。男性の薄毛は、成長期が短くなり毛が十分育たないまま短期間に抜けてしまうために起こります。この場合、薄毛の兆候をチェックする簡単な方法があります。抜け毛の中に先の細い毛の割合が多いかどうかです。つまり、悲しいかな天寿を全うできずに、散髪に行ってカットされる前に抜けてしまった毛の割合です。こういう毛が増えてくるのは危険な兆候といえます。それに対して女性の場合、1毛群の本数が減っているわけですから、休止期から成長期に戻る過程で新毛が生えにくいのが原因と考えられます。髪のボリュームが減ったなと感じたら要注意かもしれません。
次に、頭皮の内部を詳しく見てみましょう(図2(b))。髪の毛のうち、皮膚の外側に出て普段目にしている部分を毛幹、皮膚の内側にある部分を毛根といい、毛を作る細胞組織を含めて毛包といいます。ここが毛の工場です。その中心にあるのが毛乳頭。毛の成長や停止などの信号を送る司令塔です。ここからの指示を受け取って毛母細胞は激しく増殖して、丈夫な毛ができあがります。このほかに髪に色をつける細胞や髪を支えてハリコシを出す細胞などがありますが、こちらは別の機会にご説明しようと思います。
ここまで、毛のでき方と抜け方がわかりました。ここからいよいよ育毛の実戦編に入ります。
薄毛は毛包の毛乳頭や毛母細胞の元気がなくなった状態ですから、元に戻して元気にする必要があるのですが、私はそれ以前に、日頃のヘアケアでこれらの細胞が働きやすい環境を作ってやることの方が重要と考えています。そのために私が個人的に心がけている頭皮環境のケアがいくつかあります。まずは頭皮を清潔にすること。私はほぼ毎日シャンプーしています。毎日シャンプーしてはいけないという都市伝説がありますが、それは石けんで頭を洗っていた時代のこと。最近のシャンプーはほとんどが頭皮にやさしい成分ですので何の問題もありません。シャンプーをまめにやっていると、確実に抜け毛が減るのを実感できると思います。ただし、注意すべきは、すすぎをしっかりすること。元々シャンプーは油や汚れを落とす以外、頭皮にとって必ずしもよいものとはいえませんから、終わったら洗浄成分をしっかり洗い流すことが大切です。流し過ぎるぐらいでちょうどよいと思います。頭皮の保湿、柔軟も必要です。仮にシャンプーのし過ぎがよろしくないとすれば、頭皮のつっぱりや乾燥による肌あれを誘発したり、さらにカサカサのフケが出やすくなったりすること。これらは薄毛の大敵です。とにかく頭皮は柔らかく保つのが育毛の基本です。頭皮環境の改善の意味から、時々ヘッドスパなど試してみるのも悪くないと思います。頭皮の洗浄と保湿が同時にできます。また頭皮の硬い方には頭皮マッサージをおすすめします。血行が悪くなって肩こりに似た状態になっていますから、肩こりをもみほぐすぐらいの感覚で、頭皮をマッサージするのが効果的です。
頭皮環境を良くしたら、次は育毛剤の出番です。育毛剤は昔に比べて確実に進化しています。育毛剤には、血行促進、毛母細胞の賦活(ふかつ)、発毛促進などの有効成分が配合されており、各社新しい有効成分の開発競争が活発です。我々のチームも前回ご紹介した男性の毛髪調査の結果を受けて、男性のうぶ毛化を改善して太くハリコシのある毛を作るための新しい有効成分を明らかにしました1)。私は今でもそれを使っています。一方で、ハゲは男性ホルモンの影響とよくいわれますが、正しくはある酵素の働きで男性ホルモンが変化したものが脱毛の原因物質になります。ですから、男性ホルモンそのものをブロックしてほかのところにガタがきても困りますから、その酵素の働きを抑える物質の方が配合され脱毛を予防します。また、これらの有効成分のほかに、保湿剤、殺菌剤など頭皮環境を改善する成分も含まれています。最近の新傾向としては、薬の副作用で毛が生えたという事例を応用した育毛剤が出回るようになったことです。しかし、こちらは本来別の目的で使われる医薬品ですから、取り扱いには注意が必要です。お医者さんや薬剤師さんに相談した方がよいでしょう。また、いよいよこんな時代がきたか!と嬉しくなるのは、再生医療の技術で頭皮に種を植え付けて毛を再生する試みが、いたるところで検討されていることです。動物では成功しているみたいですが、ヒトに応用となるとここからが長い!生きている間に実用化されるかぜひ期待したいところです。
以上、薄毛の恐怖と戦うために、私自身が普段から心がけていることを中心にお話ししました。まだまだ話し足りませんが、紙面の関係でここら辺に留めておきます。季節の変わり目、特に春と秋は抜け毛の季節といわれています。類人猿の時代に冬毛と夏毛が生え変わっていた名残という説もありますが、実際は冬場の乾燥や新生活のストレスなどが原因のようです。地道な努力を続けましょう。最後にもう一言。ダイエットと育毛は止めると必ずリバウンドがきます。要注意です!
◇参考文献
1) T. Takahashi, A. Ishino, T. Arai, C. Hamada, Y. Nakazawa, T. Iwabuchi and M. Tajima, Clinical and Experimental Dermatology (2016) 41, 302–307
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