社報shinko〜親交〜 2018年04月号
当社のバックグラウンド Background of the PRIMIX(2)
代表取締役社長 古市 尚
3月号に引き続き、昨年12月埼玉県行田市で行われた講演会「世界企業トヨタの発展秘話-豊田佐吉を支えた行田人-」の講演内容(山口様のブログ)をshinko紙面でご紹介させていただきます。
当社の創業にも尽力した古市勉は、会長古市實の伯父にあたります。この話の中で、人と人とのつながりや信用されることの大切さ、また夢に向かって突き進んでいく執念のようなものを感じました。当社は長く社是として「製品の独自性」「協調前進」「誠実明朗」を掲げておりましたが、そのバックグラウンドを垣間見た感じがしました。
豊田佐吉を支えた埼玉のサポーターたち(その2) 藤野亀之助
6.もう一人の佐吉サポーター 藤野亀之助
次に、もう一人の佐吉サポーター、藤野亀之助に移ろう。
話は少し遡る。西川秋次が蔵前の高等工業学校を終え、佐吉のもとに戻ってくるのは明治42年春のこと。それから2年後、当時、佐吉は三井や関西財界が母体となって設立された豊田式織機株式会社で月給取りの発明家に据えられていた。ところが佐吉はその職を投げだし辞職してしまう。経営陣との考え方が合わなかったのだ。佐吉は資本家との協同で仕事をすることの煩わしさを知り、理想実現のためには自分の思い通りになる会社を起こすことだ、と悟った。それに、なんといっても資金が欲しかった。この一件は、後に上海進出の動機につながってくる。
豊田式織機株式会社との関係を絶ったあと、悲嘆する佐吉の姿を見ていたのが三井物産大阪支店長藤野亀之助である。佐吉と西川の心機一転のために、欧米視察に派遣したいと三井本社に諮る。益田孝社長の賛意もあり、三井物産の全面的支援によって二人の海外視察が実現する。
ところで、藤野の佐吉に対する惚れ込みようは尋常ではない。それまで藤野が絡んだ三井物産の豊田支援は数度にわたっている。だが両者の思惑違いもあって、佐吉との協同事業はすべて噛み合っていなかった。それでも佐吉との縁を三井物産は切っていない。藤野と佐吉の人間的な信頼関係を重視していたからにほかならない。藤野個人が介在しての再三にわたる佐吉へのサポート、これを認めた三井物産本社の懐の深さがうかがえる。ひるがえって、現在の日本のベンチャー育成に欠けているのは、長い目で人物を見る投資家の“眼力”だといえる。
7.組織を超えた個人の信頼がすべて
そもそも、最初に豊田佐吉の将来性を見ぬき、三井物産の理事上田安三郎を動かしたのが藤野だった。明治31年の当時、愛知県半田では佐吉の最大の恩人、石川藤八の経営する乙川綿布工場が盛んに稼動していた。乙川綿布の品質の良さを現地に確かめに来た藤野は、この工場で織機の研究、改良に没頭する佐吉と出会った。そのとき生涯に通じる縁を予感する。両者には相当のシンパシーが通じあったのだろう。
三井が関心を示したことで、政府高官の大隈重信、井上馨らが乙川を訪れ、佐吉の名前も世に知られることになった。
また、佐吉の令嬢愛子と繊維業界で鳴らした東洋綿花社長児玉一造の弟、利三郎との縁結びをしたのも藤野である。
藤野は、佐吉と同年の慶応3年(1867)生れ。行田を出て渋沢栄一の設立した商法講習所に学び、三井物産に入社する。初代社長益田孝の指示を受け、営業幹部として紡績マーケットの開拓に尽力した功労者である。周囲の反対を押し切って上海へいこうとする佐吉を、利三郎と一緒にバックアップした藤野の姿勢に、会社人を超えた信義の人としての人物像が見えてくる。大正9年(1920)1月、藤野は死去する。訃報を聞いた佐吉は、古市を連れて上海から真っ先に神戸の藤野のもとに駆けつけている。
8.トヨタ源流につながる埼玉の地縁、人縁
このように、埼玉県の行田市、その同じ場所から古市と藤野の二人が豊田佐吉、西川秋次と結ばれていたのは奇縁である。
話は余談になるが、行田に「ものつくり大学」ができたときの大学総長は哲学者の梅原猛だった。あるとき、梅原は大学の支援を外部に依頼する。その相手の一人がトヨタ自動車の総帥豊田章一郎であった。それには背景があった。梅原の父親は知多半島の内海に生れ、東北大学に進んだ研究者だった。戦前、将来のトヨタを担う人材を探していた豊田喜一郎によって、梅原は才能を見出され、戦後になりトヨタに招かれ自動車の基礎技術を担当する。あのコロナの生みの親となったのである。梅原猛と豊田章一郎はすでに親の代からつながっていたといえる。このエピソード、行田市立郷土博物館(元)副館長の塚田さんから聞いた話である。
トヨタの源流である上海、そして埼玉県行田市、それらの場所と人物が見えない糸でつながっていたのだ。豊田佐吉、西川秋次をめぐる縁の不思議を感じる。 (了)
出典:山口勝治様ブログ「東人雑記」(http://blog.livedoor.jp/guen555/archives/52041014.html)より
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