化粧品のスペシャリスト、高橋さんに聞く! 美容のあれこれ■男と女の薄毛事情その1:ハゲても毛は減っていない?
乳化分散技術研究所® テクニカル・ディレクター 高橋 唯仁
大手化粧品メーカで長年従事されてきた化粧品のスペシャリスト、乳化分散技術研究所® 高橋さんの美容に関するコラムです。今回はみんな気になる毛のお話。
最近、私が化粧品会社にいた頃の研究内容が、長い沈黙を破ってイギリスの専門誌に掲載されました1)。どういう内容かといいますと、育毛剤開発をしていた頃、15歳から61歳までの男性369名を対象に行った薄毛と毛の本数、毛の太さの関係について調査した結果です。男性の場合、ある年齢以上になると、かなりの確率で頭髪が薄くなってきます。この現象を男性型脱毛とよんでいます。AGAという名前をCMその他で耳にしたことがあると思いますが、これは男性型脱毛の英語名androgenetic alopeciaを略したものです。AGAになると、抜け毛が増えたり毛が細くなったり、いろいろな症状が現れます。ところが、AGAは毛が細くなるのがきいているのか、毛が抜けるのがきいているのか、当時諸説あってよくわかっていませんでした。そこで我々の研究チームは新製品の開発に先立って、男性の頭髪調査を徹底的にやろうということになったのです。今回はこの研究内容を引用しながら、ハゲる過程で毛はどうなっていくのか、薄毛の特徴について見てみたいと思います。

少々気持ち悪いかもしれませんが、我慢して図1をご覧ください。頭の写真が12枚並んでいます。調査にご協力いただいた男性1人1人の写真を見た目で判定して、ハゲ具合を、ふさふさからつるつるまで12段階に分けたものです。写真は客観性を持たせるために、まずプロの美容師が寸分の狂いなく正確に真ん中分けにして、その頭を直接垂直方向からプロのカメラマンが撮影しています。数字が大きくなるにつれて少しずつ薄毛が進行しているのがわかると思います。写真の下にあるタイプⅠ〜Ⅵというのは、毛髪研究者の間で一般に使われているハゲ方のパターンに当てはめたものです。この時はタイプⅠ、Ⅱを見た目には全く心配ないnon-AGA、タイプⅢ〜ⅥをAGAと定義しました。タイプⅢですと、てっぺんがちょっときたかなという程度、タイプⅥで、前後がほぼつながった状態と考えるとだいたいイメージできると思います。これらの人たちの毛の太さ、毛の本数を計測して、ハゲの進行と毛の状態について詳しく調べました。まず、真ん中分けにした分け目から4㎝離れたところを1㎝角で刈り込みます(図2黄色の所)。切った毛はすべて回収し、1本1本の太さを測定します。一方、刈り取った後の頭皮はマイクロスコープで拡大し、そのエリア内にある毛の本数を数えます。これが1平方㎝当たりの毛の密度ということになります。頭の真ん中から4㎝離れたところですから、タイプⅠとⅡの人はたっぷり毛が生えている部分、タイプⅥではほとんど生えていない(ように見える)部分ということになります。このデータを比較してみると面白い特徴が見えてきました。なんと、ハゲている(ように見える)人も、ふさふさの人も、生えている毛の本数がほぼ同じだったのです(図2、図3a)。これに対して、毛の太さの方は、図3bのように、タイプⅢ以上の人は進行とともにうぶ毛の比率が高くなっています。すなわち男性の薄毛は、毛が細くなるうぶ毛化が主な原因であり、ハゲても毛の本数はほとんど減っていないという事実が判明しました。


薄毛は必ずしも男性だけの問題ではなく、女性にも起こりうる現象です。女性の調査データもちゃんと論文発表されていますのでご紹介します2)。14歳から68歳まで159名の女性を対象に、男性と同様の方法で頭髪調査が行われました。その結果は男性とは微妙に違っています。女性の場合、20代、30代と年齢が進むにつれ、太く頑丈な毛に成長していきます。図4に年齢別に女性の頭皮の代表的パターンを示します。10代より30代の方が明らかに太いのがわかると思います。さらに歳を重ねるにしたがい、ある変化が現れます。ヒトの頭髪の場合、通常2〜3本まとまって生えていて、それぞれを毛群といいますが、女性の場合、1本しか生えていない毛群が徐々に増えてきます。すなわち、男性と違って毛の本数が減っているのです。図2と見比べてみると、男性の場合、かなりきているタイプⅥの人でも毛群は十分キープされているのがわかりますね。これが男女の薄毛事情の違いです。さらに写真を比較してみると、50代、60代で薄毛が見られる女性では、毛の成長不良とうぶ毛化が追い打ちをかけています。こうなると女性でもかなり気の毒な状態といわざるを得ません。
以上まとめますと、キーワードは男性の場合「うぶ毛」、女性の場合「本数」ということになるかと思います。今回、紙面の関係でかなり要約しましたので、もし興味のある方は下に紹介している原著をダウンロードしてお読みください。詳しいデータが載っています。次回はこの結果をふまえて、実際問題いかなるケアをしたらよいか、すでに薄毛年齢真っ盛りの私がどのようにして持ちこたえているか、自ら実践している育毛法を中心にお話しいたします。
◇参考文献
1) A. Ishino, T. Takahashi, J. Suzuki, Y. Nakazawa, T. Iwabuchi and M. Tajima, Br. J. Dermatol., 171, 1052–1059 (2014)
2) M. Tajima, C. Hamada, T. Arai, M. Miyazawa, R. Shibata, A. Ishino, J. Dermatol. Sci., 45, 93-103 (2007)